我々人類にとって有用な形質を持つ新しい植物を作り育てることを、植物育種といいます。植物育種学教育?研究分野では、植物の中で起こっている様々な現象を正確に知り、その知識を植物育種に役立てることを目指してタンパク質や遺伝子の研究を行っています。 タンパク質は細胞の中で「働き手」として機能しています。例えば酵素として働くタンパク質は、細胞を構成する物質の合成や分解反応ばかりではなく、外界 からの刺激に対する応答反応を制御していることも知られています。また、必要に応じて目的の遺伝子の発現を誘導している因子もタンパク質です。したがっ て、細胞の中で働くこれらのタンパク質の機能を知ることは植物育種にとって極めて重要なことなのです。一方、「働き手」としての役割を担うタンパク質の設計図が遺伝子です。遺伝的な改良を行って有用な形質を持つ植物を作成するためには、有用な遺伝子を特 定することが必要不可欠となります。またタンパク 質の機能を知る上でも、遺伝子を使った研究はとても有効です。現在、一部のモデル植物では全ゲノム情報が明らかにされ遺伝子の解析を行いやすい研究環境が 整ってきました。しかし、多くの植物種では未整備な状況にあります。したがって、多くの植物種で有用な遺伝子を特定するための技術を開発することも植物育 種学では重要となります。 以上のような視点から、私たちの研究室では次のような研究を行っています。
本研究では、ゲノム編集技術などを用いた遺伝子改変により、開花(花弁展開)から花弁老化までの時間、すなわち「花の寿命」を人為的に制御することで、 ‘受粉効率’、‘花持ち性’および ‘種子生産性’ が向上した作物品種の育成を可能にするための新たな知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでい ます。
キーワード
花弁老化、プログラム細胞死、GWAS、オートファジー、14-3-
3タンパク質、CRISPR/Cas9、種子生産性、開花時刻、受粉効率、アサガオ
本研究では、遠縁交雑による育種の障害となっている「雑種致死」および「雑種弱勢」の発現およびその克服現象に関わる分子機構を解明し、それらの発現を人為 的に抑制することで、野生種の持つ環境ストレス耐性などの有用形質を栽培種に導入することを可能にする新たな知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
交雑育種、遠縁交雑、DNAのメチル化、タンパク質凝集体、オートファジー、免疫応答、液胞型細胞死、プロテオーム、タバコ属、シロイヌナズナ
本研究では、作物の持続的な生産および収量増加を達成するため、本学の横山正教授によって開発されたBacillus pumilus TUAT1株を原体とする微生物資材(バイオ肥料「きくいち」)のもつ「成長促進」や「環境ストレス耐性の向上」といった多面的な機能が安定的かつ高いレベルで現れる作物品種を効率的に育成するための知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
PGPR(植物生育促進根圏細菌)、化学肥料低減栽培、次世代シーケンサー(NGS)、GWAS、世界のイネコアコレクション、日本のイネコアコレクション、品種間差異、ストレス耐性、病害応答